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大阪高等裁判所 昭和50年(う)29号 判決

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役三年に処する。

原審における未決勾留日数中一〇〇日を右刑に算入する。

理由

本件控訴の趣意は、被告人および弁護人桂川史作成の各控訴趣意書記載のとおりであるから、これらを引用する。

論旨は、いずれも原判決の量刑不当を主張するのであるが、これに対する判断に先立ち、まず、職権をもつて案ずるに、原判決は、罪となるべき事実として、「被告人は、第一、(一)昭和三八年六月二一日中野簡易裁判所で窃盗罪により懲役二年に処せられ(同年七月六日確定)、同四〇年四月一一日右刑の執行を受け終わり、(二)昭和四〇年一一月一二日松戸簡易裁判所で窃盗罪により懲役一年一〇月に処せられ(同月二七日確定)、同四二年九月一一日右刑の執行を受け終わり、(三)昭和四三年八月二日神奈川簡易裁判所で窃盗罪により懲役二年二月に処せられ(同月一七日確定)、同四五年九月一日右刑の執行を受け終わり、(四)昭和四六年四月九日大津地方裁判所で住居侵入、常習累犯窃盗罪((三)の刑の執行終了後に犯したもの)により懲役三年に処せられ(同月二四日確定)、同四九年三月九日右刑の執行を受け終つたものであるが、さらに、常習として、昭和四九年七月一日午前一時四〇分ごろ、奈良市山陵町三五四番地の二中東清隆方において、同人所有にかかる現金八、五〇〇円およびレザー製手提袋一個(時価約六〇〇円相当)を窃取し、第二、窃盗の目的で他人の住居に侵入しようと企て、一、昭和四九年七月一日午前一時一〇分ごろ、奈良市山陵町三四八番地の六倭村昭弘方で、同人方に侵入するため、階下六帖の間の南側アルミサツシガラス戸のガラスを破つて手を中にさし入れ、施錠をはずして右ガラス戸を引きあけたけれども、おりから同帖の間で就寝中の家人がその物音に目をさまして起き出たため、そのまま逃走して侵入の目的を遂げず、二、同日午前二時二〇分ごろ、同町一八八番地蔵本信雄方で、同人方に侵入するため、階下裏勝手口ガラス戸のガラスを破つて手を中にさし入れ、施錠をはずそうとしたけれども、まだはずせない間に物音に気付いた右蔵本に誰何されたため、そのまま逃走して侵入の目的を遂げず、三、同日午前二時三〇分ごろ、同町二二六番地の二藤川秀雄方で、同人方に侵入するため、階下応接間南側アルミサツシガラス戸のガラスを破つて手を中にさし入れ、施錠をはずしたけれども、右応接間に放し飼いにされていた犬に吠えられたため、そのまま逃走して侵入の目的を遂げなかつたものである。」との事実を認定し、第一の事実につき盗犯等ノ防止及処分ニ関スル法律三条(二条)を、第二の一ないし三の各事実につき刑法一三二条、一三〇条をそれぞれ適用しており、右第一の窃盗が盗犯等ノ防止及び処分ニ関スル法律三条の要件を具備していることは原判決挙示の証拠により明らかであるところ、右証拠によれば、右第一の窃盗は、午前一時四〇分ごろ他人の住居に侵入してなされたものであることが明らかであり、而も、右第二の一ないし三の各住居侵入未遂は、被告人が右第一の犯行日の午前一時一〇分ごろから午前二時三〇分ごろまでの間に、窃盗の目的で三回に亘り他人の住居に侵入しようとしてその目的を遂げなかつたものであり、さらに、被告人の検察官に対する供述調書および当審で取り調べた判決謄本四通によれば、被告人の右第一の(一)ないし(四)の前科の各窃盗罪は、いずれも夜間他人の住居に侵入して犯した窃盗罪であり、右(四)の前科の住居侵入罪も窃盗の目的で夜間他人の住居に侵入したものであつて、これらの事実に徴すると、被告人の右第一の窃盗は、同法二条の定める構成要件、即ち、常習として夜間人の住居に侵入して窃盗罪を犯した場合に該当することが明らかである。そうすると、被告人の右第一の窃盗は、同法二条の要件を具備すると共に同法三条の要件をも具備していることになるから、かかる場合、同法二条および三条の関係をどのように考え、どのように擬律すべきかが問題となるところ、この点については、同法の二条と三条は、規定相互の関係からいずれが優先するともいずれが他方を吸収するとも断じ難く、これは立法の不備であつて、同法の二条と三条は選択的に適用されるべきものと解する見解(昭和四四年九月一八日高松地方裁判所判決、刑事裁判月報一巻九号九五四頁)があり、実務上も同法の二条と三条の適用が起訴する際の検察官の選択に委ねられている場合があることは否定できないが、右判決のような解釈は法律論として正当ではなく、同法三条が「前条ノ例ニ依ル」と規定しているのは、同法二条に該当する窃盗の常習者以外の窃盗の常習者のうち一定の前科がある者については前条と同様に処罰する、との趣旨であつて、同法の二条と三条とは補充関係にあるものと解するのが相当である。そうすると、被告人の右第一の窃盗に対しては同法二条のみが適用され、同法三条は適用されないことになるから、被告人の右第一の窃盗が同法三条に該当するものと認め、右第一の事実を認定した原判決には、法令の解釈適用を誤り、その結果事実を誤認したか、又は、単に事実を誤認した違法が存するものといわなければならず、右の違法は判決に影響をおよぼすことが明らかであり、而も、原判決は、右第一の事実と第二の一ないし三の各事実を併合罪として単一の刑をもつて処断しているから、原判決はその全部につき破棄を免れない。

よつて、量刑不当の控訴趣意に対する判断を省略し、刑事訴訟法三九七条一項、三八〇条、三八二条により原判決を破棄し、同法四〇〇条但書により当裁判所においてさらに次のとおり判決する。

(罪となるべき事実)

第一、原判決の罪となるべき事実第一を、当審で予備的に変更された訴因に基づき次のとおり変更して認定する。

被告人は、常習として、夜間である昭和四九年七月一日午前一時四〇分ごろ、窃盗の目的で奈良市山陵町三五四番地の二中東清隆方に侵入し、同所において同人所有にかかる現金八、五〇〇円およびレザー製手提鞄一個(時価約六〇〇円相当)を窃取したものである。

第二、原判決が適法に確定した罪となるべき事実第二の一ないし三のとおりである。

〈証拠省略〉

(法令の適用)

被告人の判示第一の所為は、盗犯等ノ防止及処分ニ関スル法律二条に該当することは明らかでるが、判示第二の一ないし三の各所為を判示第一の所為と包括して一罪とすべきか、これと別個の併合罪とすべきかについては問題がある。勿論、同法二条を形式的に解釈する限り判示第一の所為と判示第二の一ないし三の各所為は併合罪となるものと思われるが、判示第二の一ないし三の各所為は、判示第一の所為と同一機会に夜間窃盗の目的で他人の住居に侵入しようとした所為であつて、右所為が住居侵入に止まらず、屋内における金品の物色にまで至つておれば、その所為は、判示第一の所為と包括されて一罪となることが明らかであるのに、金品の物色にまで至らなかつたがため判示第一の所為と判示第二の一ないし三の各所為が併合罪となり処断刑が重くなるのは不合理というほかはなく、このようなことは、被告人が判示第一の常習特殊窃盗を犯したほかに、それと一連の関係において常習性の発露として判示第一のような手口によらない単純な窃盗罪を犯した場合にも生じるところ、右の場合、その単純窃盗は同法二条の常習特殊窃盗に包括されて別罪を構成しないものと解すべきであることは、昭和三三年四月一八日福岡高等裁判所宮崎支部判決(高等裁判所判例集一一巻三号九七頁)の示すとおりであり、同法二条の常習特殊窃盗が成立するためには単に窃盗の習癖があるだけでは足りず、同条の一号ないし四号に定められた犯罪の手口についても常習性が存することを要するものと解すべきである点、および同法二条四号の住居侵入は同条の罪に包括されて別罪を構成しないものと解すべきである点を合わせ考えると、被告人が、判示第一の罪の常習性の発露としてなしたものと認められる判示第二の一ないし三の各所為も、右単純窃盗の場合と同様判示第一の所為に包括されて別罪を構成しないものと解するのが相当である。そうすると、判示第一の所為および判示第二の一ないし三の各所為は包括して同法二条に該当することになるところ、被告人には、原判示第一の(三)および(四)の累犯となるべき各前科があるので、右罪につき刑法五九条、五六条一項、五七条により同法一四条の制限内で三犯の加重をし、右加重にかかる刑期の範囲内で諸般の情状を考慮のうえ、被告人を懲役三年に処し、同法二一条により原審における未決勾留日数中一〇〇日を右刑に算入し、原審および当審の訴訟費用は、刑事訴訟法一八一条一項但書により被告人に負担させないこととし、主文のとおり判決する。

(原田修 石松竹雄 角敬)

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